電通大の国際交流
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蜂須 拓総合情報学専攻 博士前期課程

派遣先:フランス INRIA Rennes
派遣期間:平成22年10月2日~12月28日

研究テーマ:触振動刺激付加によるPseudo-Haptic Feedbackの拡張

活動の概要

PCマウス等を使って画面操作するGUIにおいて, pseudo-hapticを用いた触覚呈示が注目されている.Pseudo-hapticとは,自己運動が投射されたマウスカーソルなどの視覚刺激の速度変化によって,擬似的な触覚が生じる錯覚現象である. Pseudo-hapticを用いた触覚呈示は視覚刺激のみで触覚呈示を行えるため,新たな触覚呈示装置を必要としないためコスト・簡便性の点で優れているといえる.

しかし人間の五感全てを利用して高い臨場感を求めるエンタテイメント等において,触覚刺激を全く利用せずpseudo-hapticのみの触覚呈示を行うことは実践的ではない.なぜならば,皮膚感覚に限って知覚できる微細な変異についてはpseudo-hapticによって視覚的に再現するとことが困難なためである.こうした視覚と触覚の特性の違いによるpseudo-hapticの限界の一つが周波数帯域である. Pseudo-hapticだけでは再現できる周波数帯域が限られ,皮膚感覚の周波数帯域に対応できない.またpseudo-hapticには視覚的な集中が必要であり,画面に集中していないかユーザの視界が遮られると全ての触覚的手がかりが失われてしまうという問題もある.

本研究では力覚呈示手法としてのpseudo-hapticと皮膚感覚呈示手法として触振動覚呈示手法を組み合わせた触覚呈示手法を提案する.本提案手法によって従来pseudo-hapticのみの触覚呈示では困難であった皮膚感覚に限って知覚できる微細な変異を呈示できると考えられる.

研究成果概要

2011年3月19-20日にシンガポール,SUNTEC Convention Centerにて開催された国際学会IEEE VR International Symposium of Virtual Reality Innovationsにポスター発表を行った[1].ポスター発表13件の中から1件選ばれるBest Poster Awardを受賞した.本学会はバーチャルリアリティの分野で未完成ながら刷新的なアイデアを中心として議論する国際学会である.

2011年5月26-28日に岡山県,岡山コンベンションセンターにて開催される日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会にて研究成果を発表する予定である[2].本学会では講演件数が1,000件を越え,我が国のロボティクス・メカトロニクスに関する学術研究を牽引する重要な講演会である.

また今後本研究プロジェクトに関連した業績発表が国内学会,国際学会,国際誌にて行われることが期待できる.

[1] T. Hachisu, G. Cirio, M. Marchal, A. Lécuyer, H. Kajimoto: Pseudo-Haptic Feedback Augmented with Visual and Tactile Vibrations, ISVRI 2011, 2011.
[2] 蜂須,Cirio,古川, Marchal, Lécuyer,梶本:触振動刺激付加によるPseudo-Haptic Feedbackの拡張:平面上の凹凸感呈示,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2011,2011.
 

国際化に関する所感及び提言

今回の派遣を通じて,欧州の学生研究員の方と日本の学生研究員とで決定的に違う点があった.集中力である.

欧州の学生の一日の研究に費やす時間は明らかに日本の学生に比べて短い.しかし仕事量があまり変わらないことに私は驚愕した.よく観察すると彼らは,デスクに向かっている間は一言も発さずひたすらキーボードを打ち続けている.それに対し,日本の学生が時折となりのものと会話したり,SNSを利用したりと研究室で余暇を過ごす姿をしばしば見かける.なぜ彼らがここまでの集中力を持てるのか不思議であった.

おそらくこの違いは,学生の背景の違いだと私は感じた.生活を営むために研究をする,研究スキルを磨く.彼らはこのことに対して常に飢餓意識を持って取り組んでいる.言語に関しても同様だ.私が訪問した研究所では多様な国や地域の出身者がいたが,皆流暢な会話ができていた.おそらく研究に取り組む姿勢と同様に習得したのだろう.

この飢餓意識を背景にした集中力の違いを,私は今回の派遣を通じて体感した.日本は学生研究員に対して優れた環境を提供していると思う.しかし私はこれに甘えず,常に飢餓意識を持とうと心に決めた.
 

作成日:2010年12月28日 / 更新日:2011年11月18日