電通大の国際交流
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野村 英之情報・通信工学専攻 助教

派遣先:スウェーデン ブレキンゲ工科大学
派遣期間:平成22年8月23日~平成23年1月24日

研究テーマ:超音波を利用した超指向性音源の音場設計用シミュレータの開発とその応用

活動の概要

Sweden, Karlskrona市にある,Blekinge Institute of Technology (BTH)において研究を行った.同大学ではC. M. Hedberg教授をグループリーダとする,Structural Analyses Group, Department of Mechanical Engineering, School of Engineeringに所属した.主として「超音波を利用した超指向性音源の音場設計用シミュレータの開発とその応用」について研究を行った.さらに滞在中は,同グループにおける「超音波による非破壊検査技術開発」や,「超指向性音源を用いたソーナ技術開発」の実験への協力,またグループミーティングへ参加し,研究成果報告や方針についてメンバーと議論を行った.特に同グループには,この分野の権威であるO. V. Rudenko教授(Acoustics Department, Moscow State University)が所属されており,同分野の現状や研究の方向性について議論を行い,有益な情報を得た.

研究と平行し,週に4時間,研究者向けのスウェーデン語クラスを受講し,現地語での交流やスウェーデンの文化を積極的に学んだ.さらに学位授与式,教授就任式など,大学の公式行事に参加した.

滞在期間中には,本学とBTHとの国際交流締結のための情報交換を目的として,本学国際交流センターの浜野亘男教授,及び総合情報学専攻の高玉圭樹准教授の訪問があった.両校の教育・研究内容の紹介,交流テーマ案などについての検討会に同席した.

研究成果概要

主として,超音波を利用した超指向性音源の音場設計用シミュレータの開発とその応用技術について研究を行った.これは超音波を用いることで,一般的なスピーカ等より鋭い指向性を有する音源を構築する技術で,パラメトリックアレイ(パラメトリックスピーカ)と呼ばれている.パラメトリックアレイの音波伝搬や音場は,非線形音波伝搬を記述する波動方程式を解くことで解析されることが多い.一方で,この解析方法は所望の音場を再現するための音源条件や,複雑な散乱体がある場合など,必ずしも最適な方法ではない.そこで今回,解析の出発点を音響物理現象,すなわち流体運動を記述する基礎方程式までさかのぼり,これらの式を数値シミュレーションすることで,非線形音波伝搬の解析を行い,その有効性を示した.さらに,開発したシミュレータの応用として,空間中の局所位置に音場を再現するSelf-silenced sound beamといわれる技術の解析,最適音源条件の検討へ適用した.シミュレーションは実験と同様に,直径18 cmの音源から空間中に幅5 cm,長さ70 cmという非常に狭い領域に,波長17 cmの可聴音の再現を再現した.

提案したシミュレータは現在,情報・通信工学専攻の鎌倉友男教授の研究グループで開発が進められている,パラメトリックスピーカの設計に有効であり,音声コミュニケーションデバイスの開発への応用が期待される.また,局所空間に音波を放射することが可能であるため,固体の探傷技術や,ソーナなどの音響計測の精密化への応用が期待される.

なお,本研究の一部は,電子情報通信学会超音波研究会(2011年4月),19th International Symposium on Nonlinear Acoustics (Tokyo, Aug. 1–4, 2011), International Congress on Ultrasonics (Gdansk, Poland, Sep. 5–8, 2011)で発表予定である.

国際化に関する所感及び提言

北欧,特にスウェーデン人の英語の発音はきれいで,聞き取りが容易だと聞いていたが,事実そのとおりであった.このことから,スウェーデンは研究目的の滞在はもちろん,語学(英語)習得のための滞在地としてもふさわしいと感じた.ただし,現地語の習得は,現地の文化理解や,人々との交流において大事であることを学んだ.なお,スウェーデン人がスウェーデンの歴史や文化を詳しく説明できるのに対し,日本の文化をあまり丁寧に説明できなかった点が残念である.外国へ目を向けることも大事であるが,自国の理解も重要であることに気がつかされた.

今回,お世話になった研究グループでは,たまたま研究対象分野の権威であるRudenko教授が所属されており,今後の研究を進める上で,重要な人脈やネットワークを得ることができた.また,所属した研究グループが専門分野外の機械系であったことも,幅広い視野で研究を捉える上で重要な体験となった.

作成日:2011年1月24日 / 更新日:2011年11月18日