電通大の国際交流
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大川 晋平知能機械工学専攻 助教

派遣先:イギリス University College London
派遣期間:平成22年8月28日~12月 1日

研究テーマ:近赤外光を用いた非侵襲生体断層画像取得のための逆問題解法に関する研究

活動の概要

University College London (UCL), Department of Computer Science のSimon Arridge 教授のグループを訪問し,近赤外光を用いた生体断層画像(拡散光トモグラフィー)再構成のための逆問題解法について研究を行った.同グループはこの研究テーマを先駆けて行っており,7名の研究員が研究に従事している.

拡散光トモグラフィーは生体に透過性の高い近赤外光をもちいるため,被験者にとって安全性が高いことや,装置がその他の医療診断画像機器に比べて小型にできるなどの利点がある一方,生体内における光の伝播が拡散的であることに起因して,空間分解能が低いという問題点がある.

この問題点を解決するために,がんや脳活動部位などを反映する光学特性値変化を局在化させるための正則化項を付加したアルゴリズムを提案し,計算機シミュレーションによってその効果について検討をおこなった.UCLの使用しているアルゴリズムの構成やノウハウ等について開発者から直接教授してもらい,理解を深めた.また,定期的に行われるミーティングに参加し,他の研究員の進捗を聞いたり,自身の研究について報告,議論した.

また,関連した生体医用光学の研究を行っているグループの研究報告会にも出席し,拡散光トモグラフィー以外の技術についても情報を収集した.研究施設を見学し,研究内容についての説明を受ける機会を得た.

研究成果

今回の派遣によって,拡散光トモグラフィー再構成のためのアルゴリズムに関する研究の現状についてUCLでの研究活動を通じで,今後,研究を進める上での方針を考える上で重要な知見を得たものと考えている.

UCLをはじめ,世界的には拡散光トモグラフィーと,その他のイメージング機器との情報を組み合わせて空間分解能を向上させようとする研究が盛んに行われている.このことは,MRIなどで得られる生体内の構造に関する詳細な情報に加えて,拡散光トモグラフィーでのみ得られる生体組織の光学的な特性の両者を活かすことができる可能性がある重要な研究テーマであるが,一方で拡散光トモグラフィーの利点を損なう恐れもある.

拡散光トモグラフィーは比較的小型であり,生体に害が少ない近赤外光を使用するため,検査時に使用が用意なものになる可能性があることが利点である.この利点を最大限に生かすためには,他のイメージングモダリティーに依存せずに,拡散光トモグラフィー単体で十分な空間分解能を得ることが理想的である.また,拡散光トモグラフィー自体の性能を高めることが,他のモダリティーとの組み合わせを行う際のパフォーマンスの向上につながることは確かである.UCLへの派遣を通じで,トモグラフィー画像再構成アルゴリズムを改善していく方針は他の研究機関と差別化された独自の研究として一定の価値があるとの確信を得た.

派遣期間中の研究については修正と改善が必要であるが,今後,出来るだけ早い時期に学会発表,論文発表を行い,大学の業績として貢献できるものと考えている.またUCLの研究者との関係を継続していくことで将来的に大学の国際化に役立てるようにする所存である.

国際化に関する所感及び提言

派遣先のグループのメンバーはロシア,インド,フィンランド,ドイツ,ポルトガルなど,世界各国から,UCLの研究員として採用されている.また,UCLには世界中から学生が集まっているように見受けられた.

このような国際的な環境が築かれているのは,近隣諸国からの航空機での移動が容易である点や,英語が公用語であることも理由として考えられるが,安心して仕事ができる身分が与えられることや,これまでの専門にこだわらずにその経験を活かすことができれば受入れるような体制や考え方があることが大きいように思う.

また,何よりもそこで行われている研究が世界的に秀でていることが海外からの人材を集めたり,海外機関とのネットワークを構築する上で重要であろう.

国際的に活動するには自分(あるいは自分達)のユニークな強みを明確にしておくことが最も本質的で重要なことではないかと考えている.

作成日:2010年12月 1日 / 更新日:2011年11月18日